草生人バックナンバーテキスト

草加のすごい企業:2013年秋号

株式会社 渡辺教具製作所

シェアも品質も国内トップの地球儀メーカー

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草加市稲荷の住宅街を歩いていて、いきなり大きな地球儀に出くわしたら、そこは渡辺教具製作所である。
 渡辺教具製作所は、シェアにおいても品質においても国内トップの地球儀メーカーだ。地球儀のほか天球儀、月球儀、星座早見盤、学校教育用プラネタリウムなど、さまざまな天文関連教材の製造、販売も行っている。科学と教育を担う重要な企業。それが草加にあるのだ。
 同社会長の渡辺美和子さんにお話を伺った。

 創業は76年前の1937年。創業者は渡辺雲晴氏。浄土真宗の僧籍を持っていた方で、築地本願寺からの要請もあって、地球儀製作を始めた。
「2、3世紀前のヨーロッパでは、地球儀づくりは個人ではできないから、教会や大学などが関与していたんですよ。天文学とか数学とかができる人がいないとできない」
 では渡辺雲晴氏に科学的な知識があったのだろうか?
「なかったと思います。その代わり築地本願寺のアカデミックな人脈が利用できたんだと思う」

 渡辺教具は1962年に株式会社に組織変更し、渡辺雲晴氏がそのまま社長に就任。だが、そのころまでに同社の基礎はほぼ完成していたという。
「正確な地球儀、正確な天球儀、お椀型の星座早見盤もすでに作ってました。学校教育用のプラネタリウムももう開発してたんですよ。プラネタリウムは、いいものが考案されたと聞くと、考案者のところに飛んで行って、商品化した」
 お椀型の星座早見盤も彼がすぐに特許を取って、それが全国の学校に普及した。小学校で星座早見盤を使ったことから渡辺教具の名前を知った人は多いだろう。

グローバルな視点を養うために最適な道具

 子供たちは地球儀から何を学ぶだろう。
「丸い地球を見ることによって、狭い中での正義っていうのは大きく見たら違うかもしれない、ということを感じてほしい。国境を越えた何かを見つけてほしいな」
 文字通り地球儀(globe)こそグローバルな視点を養うために最適な道具なのだ。
 現実の国際政治やそれに伴う国境線は常に変化し続ける。渡辺教具の地球儀は更新され続けている。

 ところで、地球儀サイズでも地形の変化がわかるほど大規模な環境変化があるという。
「世界で4番目の大きさの湖だったアラル海がここ20年ぐらいの間に3分の1ぐらいになってしまいました」
 ブラジルの熱帯雨林の減少も地球儀レベルで確認できるそうだ。

「主婦感覚」で社内改革

 1995年に三代目社長の渡辺浩氏が逝去し、妻である渡辺美和子さんが四代目社長に就任した。
 息子さんに継がせるためのつなぎとして社長を引き受けたという。
「娘だけだったら閉じてもよかったかもしれない。男の子3人。私がやれば誰かやらないわけにはいかないんじゃない? と思って」
 社長に就任して、会社の立て直しが必要な状況に直面し、営業活動に出た。それまでは「会社自体が妙にアカデミックだったから」外に出て積極的に営業活動をすることがあまりなかった。

 また、工場内部の改革にも着手した。
「嫌がれるかもしれないけれど、工場内部に足を踏み入れて全部見直しました。無駄なところは省いて、って。それは今も続いていますね」
 それは「主婦感覚」でもあるという。意外な無駄をチェックして改善する。主婦感覚とは、言い換えればケチであること。
「子育てで子供にやかましくいうと嫌がられるかもしれないけど、会社なら言えます(笑)。社員に還元することだから言えるんですよ」
 地球儀の機械生産を取り入れるなど生産体制の改革が功を奏して、生産量が見違えるように向上した。

知的なネットワークが構築されている

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本社2階に「ミニ博物館 地球&宇宙」があり、市民に開放されている。
 そこには渡辺教具が作ってきた様々な種類の地球儀、天球儀、月球儀、火星儀などが展示されている。温暖化予想地球儀、サッカーボールの地球儀、オランダ人ファルクが300年前に製作したものを再現した地球儀・天球儀など。

 岩石・鉱物・化石の標本展示も豊富だ。東京学芸大学名誉教授の稲森潤氏より譲り受けたものが多いという。
 プラネタリウムもあり、プロのプラネタリウム解説員も定期的にミニ博物館に来てくださっている。元地質標本館館長の豊遙秋氏をはじめとする科学者たちの講演も開かれる。
 渡辺教具の周囲に知的なネットワークが構築されていることがわかる。創業者渡辺雲晴氏からの伝統かもしれない。

「11月に、JAXA(ジャクサ)のコズミックカレッジという教育プログラムを草加中学校で開催することになり、講師を派遣していただくのよ」
 当日は月球儀作りと講演を予定している。

草加の科学教育の中心に渡辺教具はある

 同社が作ったいちばん大きい地球儀は獨協大学の東棟にある。直径170センチメートル。
「学生がたくさん集まる場所にあってすごい活用してくれてる。学長が地理の先生だから授業にも使ってくださってる」
 獨協大学との関わりは深い。
 2011年5月、獨協大学で小型惑星探査機「はやぶさ」の帰還カプセル公開が行われたが、そのきっかけを作ったのは渡辺さんだったという。

「もともと天文の先生が私どものことをご存知で。その先生から天文ウィークで何人かの講師を迎えて何かやりたいという打診があったので、今だったらこれ(「はやぶさ」の帰還カプセル公開)にエントリーして! とアドバイスしました」
 周辺情報を集めて、周辺の科学館が手をあげてない、ということがわかっていた。また獨協大学にははやぶさの本を書いた山根一眞先生がいることも幸いして、「はやぶさ誘致」が実現した。
 草加における科学教育の中心に渡辺教具があると言ってもいいだろう。

「天文学はすごい進歩を遂げちゃったので本当にみんながわかるようにする。そういうのを提供する会社なんだ」と自負している。
 昨年8月に、長男の渡辺有摩さんが取締役社長に就任し、渡辺美和子さんは会長に就任した。美和子さんの教育活動は今後もますます活発になるだろう。

株式会社 渡辺教具製作所
草加市稲荷3-20-14
TEL:048-936-0339

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